最終更新日 令和3年1月4日
学会参加報告
11月25日と26日に行われた第34回日本森田療法学会に参加してきました。
色々な話を聞けて大変面白かったのですが、いくつか気になった点があり、テーマごとに報告していきたいと思います。
テーマ1:『伝える』と『伝わる』
いくつもの発表を聞いたのですが、その中でも2つ3つ、すごいなと思う発表がありました。内容がよいという話ではなく(もちろん内容は面白かったが)、全体として発表の完成度が非常に高かったのです。スライドの完成度及び内容構成の整い方(この辺りはどの発表者も気にしていると思われるがその中でも特に完成度が高かった)、話すスピードなど時間管理、果ては話し方や声のトーンまで準備してきたと思われるほど聞き心地のよい発表でした。
他の発表及び発表者との違いは、『伝えること』と『伝わること』の違い、と言えば分かりやすいかもしれません。聴衆をしっかり意識し、どうしたら聞き手によく伝わるかを考えて発表するということはもしかしたら基本かも知れませんが、そのような熱意、影の努力が伝わってくるような発表はそう多くはなかったです。
森田療法の重要な特徴の一つに、自分自身の内側に向いた意識を外界へ向ける、という点があると思いますが、『伝える』ことが内向きであり『伝わる』ことが外向きと言えるかと思います。治療者でもないのに出過ぎた真似と思いますが、治療者の皆様方にはぜひとも模範として『伝わる』ことにより強い意識を向けて頂くことを切にお願い申し上げます。
テーマ2:自助活動
森田療法において自助活動は治療と並ぶ軸といえるくらい重要で、毎年学会において自助活動に関する発表がいくつもあります。今年の森田正馬賞を受賞した比嘉先生の講演では、森田療法の自助活動の歴史を振り返りながら考察したもので、非情に興味深い内容でした。
ここで扱いたいのは自助活動の本質と森田療法の本質の関係です。まず下の表を見てください。
自助活動の特徴(wikipediaより抜粋) 森田療法の特徴(一部)
体験の共有、分かち合い 神経症の治療
「仲間」 生活を念頭に置いた治療
自発的な参加 学習することが重要
相互支援、相互扶助 森田自身が神経症だった
対等な関係 後継者も神経症多数
森田正馬が創始した治療は自分が治った体験から理論構築が始まったといっても過言ではないでしょう。となると治療そのものが自助的要素が多分に含まれるのも当然といえます。他の自助活動が行われる治療では基本的にそういう事はないでしょう(例外はあるかもしれませんが)。それゆえに森田療法及び神経症においては自助と治療のバランスが非常に繊細だと思います。それは回復者から治療者への移行例が多いため、非正式(つまり無資格)の治療者が誕生しやすく、自助活動の中で治療者役を務めてしまう者が出てきやすいということですが、こうなってくると自助性が損なわれていきます。
先日の学会ではこの点に対する指摘や、対策案もしくは実践例といったものが提示されました。詳細は割愛させていただきますが、現在の「生活の発見会」を始めとする自助グループの活動がより盛んになっていくよう少しでも協力できたらいいなと考えています。
テーマ3:継続と新たな出会い
私自身は昨年に続いて2回目の参加でしたが、昨年聞かせていただいた方の発表を今年も聴くという機会が幾らかありました。発表自体が明確に継続を謳っているものもあれば、そうでないものもありました。当たり前かもしれませんが、継続路線というものは今までの事を知っていると深みを感じながら聴くことができます。前回参加時のノートを事前にさっと目を通し、今年の発表を聴く。オススメです。
そして継続して聴く機会もあれば当然初めて発表を聴かせていただくものもあるわけですが、いくつか「これはなかなか面白い」と思う発表があるわけです。その時はタイミングを図ってコンタクトをとってみたり知り合いに紹介してもらったりして、より深い話を聞かせて頂いています。
2回参加した程度ですが、私にとって学会とはただ発表を聞くだけでなく、新たな繋がりを得る良い機会となっています。皆様も知的好奇心に身を任せて積極的に行動してみてはどうでしょうか。まあ疲れますけど。(矢野)